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某サイトへの挑戦(ギリギリ的な意味で

駄目小説第二弾……ということで晒します。
ギリギリエロス企画作品。

これ書いてたときの僕自身をですね、


こうですね、









何考えてんだと小一時間問い詰めた上でぶん殴りたい。



黒歴史決定。

『大福作法研究所』
 その世界が、本当にあったかどうかは分からない。
 けれど、このたった一つの和菓子が、この感触が、俺とあいつらをずっと繋いでいてくれる。
 そんな気がしたんだ。

「……ろ」
 そんな声で、俺の意識はぼんやりと現世に舞い戻ってきた。同時に俺の両肩がしっかりとした手に掴まれ、優しく、それでいて強く揺さぶられていた。
「起きろ、秋葉君。もうすぐ試合が始まる」
 誰だ、と俺は夢うつつのままで問いかけた。俺の眠りを妨げたのは、今までに聞いた事のない男の声だった。つい先刻まで清少納言がどうのこうの言っていた古典教師の声でもない。まぶたを通した薄明るい光が眩しく感じられ、俺は眠気と戦いながら目を開いた。
「ああ、ようやくお目覚めだね。おはよう、秋葉純也君」
 やたらカッコいい男が、にっこり微笑んで俺を覗き込んでいた。
 サラサラと柔らかそうなやや眺めの髪、優しくも頼もしげな双眸、そのくせ彫りが深い顔立ちは、欧米人とのハーフだと言われても俺は信じただろう。背は高いほうで、すっきりと痩せている。カッターシャツに黒のスーツパンツが小憎らしいほど似合っているが、何故か彼は蝶ネクタイをしていた。司会者か何かだろうか?
「……あんた、誰」
「僕か、そうだね……分かりやすく言うと、神様みたいなものかな」
「神様?」 
 目の前のイケメンは、理知的な顔に似合わないぶっ飛んだ台詞を真顔で吐きおった。
「いや、あんた、どこからどう見ても人間だろ」
「人間だね。けれど、この世界の審判というか管理者というか、まあそんな役割を担っているのは事実だよ」
「この……世界?」
 その奇妙な表現に疑問が湧いた。
 弾かれたように飛び起き、辺りを見渡すと、ここはついさっきまで俺が居た高校の教室ではなくなっていた。イケメンの背後に小さなドアが一つ見えるだけ、蛍光灯が天井に一つあるだけの、四方を真っ白な壁に囲まれた小さな部屋。俺が寝ていたのは保健室にあるような上等のベッドでも教室の貧相な椅子ではなく、遊園地のアトラクション前に置いてあるようなプラスチックの青いベンチだった。なのに、自分の服装は汗臭い学ランのままだ。おかしい――ようやく頭の中から霞が消えた。
「ここはどこだ? あんた、俺に何を一体何をした?」
 何だ、何が起こった? 今の今まで親友と机を並べ「雪のいと高う降りたるを、例ならず御格子まゐりて」みたいな呪文に惰眠をむさぼっていた俺の日常はどこへ行った?
「落ち着いてくれ、秋葉君。順に説明する」 
 混乱する俺に、自称神様が優しく諭すように言った。
「まず言っておこう。ここは君がいた日本じゃない、別の世界だ。パラレルワールドと言えば分かってもらえるかな。君は、僕がこの世界に呼んだ異世界人ということになる」
「……何……だと……?」
『ドドドドドドド』的な擬音が俺の背後に響き渡った。にわかには信じがたい話だ。
「呼んだって、あなたは魔法使いか何かなんですか?」
 俺の口調はいつの間にか敬語になっていた。神様という世迷い言を信じたわけではないが、何故かそうしないといけない気がしたのだ。自称神様はそれも良いかもしれないなと呟いた。
「魔法使いではないけれど、君の答えは半分当たりだ。この国では、魔法でも何でも、そういう夢を叶えることが出来るんだ。ちなみにこの世界は、ライ……間違えた、ルベノトイラというのだけどね」
「何スかそのスダ=ドアカ・ワールドみたいな名前は」
 俺が思わず昭和五十年代生まれのツッコミを入れると、彼はうんうんと満足そうに微笑んだ。
「僕の見込んだ通り、良いキレだ。さて、君をわざわざ別世界から呼んだのには理由がある。この世界、ライトノ……ルベノトイラの未来にかかわる、重要な仕事を任せたいんだ。承諾もなく呼び出してしまって本当に申し訳なかったが、それさえこなしてくれれば、君を無事に元の世界へ帰すと約束しよう」
「本当ですか?」
 何だか訳の分からない展開だったが、俺は「帰れる」の一言に救われた想いがした。目の前の男が勝手な理由で俺を呼んだのだから、怒りを覚えてもいいはずだったが、不思議とそんな気にはならなかった。早く現実に戻りたい、教室の馬鹿共のところに埋まりたい一心で、俺は彼を急かしていた。この学ランが似合う汗臭い男子校の教室こそ、俺の日常なのだ。
「やるやる、やります。それで、重要な仕事というのは? まさか、この世界を救って欲しいとか、そういう選ばれし者にしか務まらないカッコ良い役目ですか」
 やばい、自分で言いながらちょっと興奮してきた。ワイシャツ姿の自称神様は腕を組み、少し考えるように言った。 
「カッコ良いかどうかは分からないが、そういう事だ。秋葉君には、このライトノベルさほ……ルベノトイラを救うのに、一役かって欲しい」
 何でだんだん言い間違いが長くなっていくんだよ、などと野暮なツッコミをしている場合じゃない。これはまさしく小説やゲームでおなじみの展開だ。そうかそうか、異世界から選ばれし勇者たる俺がやらねばならんのね、そうしないと世界が滅ぶのねと拳を固く握り締めた。
 くぅう、燃えてきたァ!
「分かりました。それで、どこで修行すれば良いんですか? この俺の右腕に隠された真の力を覚醒させるには? 敵を切り裂く伝説の剣的な武器はどこで? 魔物を一瞬で凍らせる究極魔法を教えてくれる魔導士は?」
「いやいや、そんなものはいらないよ。真の力も伝説の剣も究極魔法も必要ない。秋葉君は、ただそのエロ知識とツッコミを、この闘技場で存分に発揮してくれれば良いんだ」
 空回りだったらしい俺の熱意に苦笑する神様。俺は肩透かしを食らったような気分だった。何だって? エロにツッコミに……闘技場?
「そうだ。時に秋葉君、君は女性の胸が大好きだろう?」
 男は妙に紳士的な言い方をした。女の子が持つ二つの宝石、おっぱい。ジーク=おっぱい。
「いきなり何を――いやまあ、好きかと聞かれたら片パイでごはん三杯はいける程度に大好物ですが」
「うん、まさに健康エロスだな。君は胸だけでなく、性的な知識についても一家言を持つほどに精通しているはずだ。そんな秋葉君だからこそ、僕はこの世界に呼んだのだ。『エロバトルの実況』として」
「……すみません、アタマが悪いのでよく分からなかったのですが、もう一度おっしゃって頂けますか」 
 闘技場でエロ実況、と真顔で答える神様。失礼を承知で言わせてくださいと前置きして、俺は「なんでやねん」と黄金パターンを見舞ってやった。
「知識が豊富なら実況じゃなくて解説でしょう、ってツッコむところはそこじゃないな、そもそも実況って何の試合ですか。言うに事欠いてエロバトル! エロバトルって! 答えによってはただじゃ」
 瞬間、際どい衣装を着た女の子があんな事やこんな事をくんずほぐれつ、の図が浮かんだ。
「……えーと、ものすごく嬉しいですね。本当にありがとうございます」
「何やら意識が彼方に行ってしまったようだが、心配は無用だ、解説はすでに有能な人材を用意してある。その前に、ルベノトイラについて説明しておこう。この世界は、基本的に何でも出来る世界だ。何でもと言うのは、文字通り『何でも』。魔法を使って襲い来る魔物を倒したり、手から炎の剣を作り出して怪物と化した親友と斬り結んだり、新学期早々トーストを咥えた美少女転校生と曲がり角でぶつかってスカートからぱんつちらり後に教室で再会するも『ああっ、あの時のスカート覗き魔!』と罵られるがツンデレツンデレ以下略……というように、個人の妄想が、その人間しだいで現実になりえる世界だ」
 自称神様が語るルノベトイラは、信じろと言われても到底無理な世界だった。だが、彼が召還した俺が現にこの世界に居るのだから、おそらくは本当なのだろう。少なくともここは、さっきまで俺が居た教室ではない。受験勉強のしすぎで疲れてるのかな、俺。
「まさに夢の国ですね……」
 俺が感嘆の呟きをもらすと、彼は神妙そうに頷いた。ちかちか光る蛍光灯が、彼の表情を一瞬覆い隠した。
「ただ、そんなラ研にも何人も侵せない制約がある――あったというべきか」
 待て。ラ研って何だ。
「聖約と言ったほうが良いかな。君の世界でいう暗黙の了解みたいなものだが、君も思春期真っ盛りならよく分かるだろう。あの『十八歳未満の閲覧・購入を禁止します』という文句を」
「ああ、俺たち健康男子の行く手を阻みまくりやがる、あのクソ忌々しい文言ですか」
 それならもちろん知っている。あんなもの無くなってしまえと何度思ったか知れない。
「そう。ここの幼い子供たちをエロの魔の手から守るためのものだが、あれがあるために、この世界でも行き過ぎた性的な妄想は禁忌だったんだ。当然、若者は悶々としていた」
「分かります。よく分かります。あのマークのせいで、何度くじけそうになったことか」
「君の性欲は正直どうでもいい。だがそんなある日、この閉塞的な現状を打破しようと、ついに一人の勇気ある若者が立ち上がった。彼は皆皆が思ってはいても決して口に出せなかった『エロスしようぜ!』を合言葉にクーデターを起こし、民衆を味方につけて、見事この不文律を消し去ったのだ。惜しくも彼はその戦いで命を落としたが、彼の故郷にはすぐに銅像が建てられ、供えられる花束が絶えた日は無いほど、人々に尊敬され親しまれている」
 俺は素直に感動した。動機はともかく、どこの世にも勇気ある改革者は居るものだ。
 自分の世界を語る様子は、本当に神様っぽい。自称神様は真剣な表情で続けた。 
「それ自体はエロス革命として、この世界を作った僕も喜ぶべきことだった。僕の手を離れ始めたのは、意義ある成長の一端だからね。だがしかし、やはり僕が恐れていた事態が起こった。ラ研がまさにエロスの無法地帯となってしまったのだ。エロスを間違った方向に解釈し、とんでもない妄想を繰り広げる輩も現れた。やはり、以前ほどとは言わなくても、エロスのセーフアウトの線引きが必要だと誰もが思うようになった。そこで今回『銀河ギリギリ☆ぶっちぎりのエロい奴世界一決定暗黒武術大会』略してギリエロ大会が開かれる事になったんだ」
「タイトルが色々混ざり過ぎですというツッコミは割愛します。何ですか、その唐突に出てきたエロチックかつアホな大会は」
「要するに、今までの枠組みの中で一番エロい人間、ギリエロキングを決めようという大会だ。優勝した職人には、今後の世界のルール、つまりどこまでポロリオッケーなのかを決める権利が与えられる」
 俺は耳を疑った。大会の優勝者が全てを決める?
「それってつまり、もし俺が出場して優勝すれば……あの、おっぱいやぱんつやその他もろもろも、全て、その」
 ごくり。
「思いのままってことですか」
「思いのままってことです」
 ……ぐび。
「出たい?」神様が意地悪く聞きやがった。
「い、いやいやそんな。可愛い女の子とくんずほぐれつ絡みながら熱血バトルしたいなあ寝技も掛け放題ですよ的なことは考えていませんよ。そんな、いろいろ揉んだり噛んだりはみはみつんつんしたりしたいなあなんて思ってませんって、ホント。ああでも、どうしてもというなら」
「そうか、残念だ。まあ仕方ない。今回は実況として頑張ってくれ」
 冷たい声で言い放つ彼。ちくしょう、自分で実況として呼んだって言っていたじゃないか。今のは確信犯だなと俺は歯噛みした。
「と、とにかくここまでの話を要約すると、エロルールを決められるギリエロキングを、この大会で選ぶ。その実況兼ツッコミをこなせば、俺は現実世界に帰れるということですね」
 その通りだ、と彼は頷いた。
「エロ知識が豊富な人間が実況してくれれば、大会もスムーズに進むし盛り上がるからね。頼んだよ、秋葉君」
 それなら話が早い。現実に早く帰りたいと言うのもあったが、正直エロバトルにも若干興味が出てきた俺がそこに居た。可愛い女の子が戦うのなら見ない手は無い。
「おっと、もう開催時刻だね。行こう、秋葉君。このドアを抜けた廊下の先が会場だ」
 神様はそう言って、くるりと背を向けた。俺はやれやれという言葉と、ほんのちょっとの興奮を胸に抱いて後に続いた。さてさて、どんなギリギリエロスがあるのやら。

 俺が居た部屋は、そのギリエロ大会会場の控え室だったらしい。細い廊下を抜けてギリエロ大会会場に着いた俺は、目を白黒させるしかなかった。
「なんだ、これ……」
 そこはある意味で地獄だった。
 広い体育館のような場所が、満員の観客で大騒ぎになっていた。真夏の剣道部室にこんにゃくと刺身を大量に放り込んだかのような香りが充満している。スポットライトが体育館の中央にプロレスのものに似たリングを照らし出していたが、そこに降り注ぐ声援はあくまで野太く低い。よく見ると、観客席を埋め尽くしているのは全員むさくるしい男だったのだ。可愛い女の子の姿なぞどこにも見当たらない。女子高生や女子大生やOLはおろか、美熟女や女子中学生の姿もない。幼女、おばちゃん、はては老婆まで、染色体XXを持つ人間は皆無だった。
 自称神様に案内され、プロレスの実況解説そのものとしか思えない席に着くと、御丁寧にも安っぽいネームプレートには『実況担当 おっぱいマイスター 秋葉純也』と書かれていた。
 俺は絶望のため息を吐いて頭を抱えた。
 ……スクール水着は、紅白の巫女服は、裸にだぼだぼワイシャツの女の子はどこですか。俺は歓声の中、思わず何故だッと泣いていた。いつの間にかリングの上でマイクを調節している自称神様を、話が違うじゃないですかと恨みながら。
「嘘だッ、ギリエロなんて絶対嘘! なんでエロを謳いながらミニスカや浴衣やワンピースのおにゃのこが一人として居ないんだよ! どうして衆人環境がジェントルメン一色に染まってるんだよ! この状況でどんな希望を持てば良いんだ俺は!」 
「はっはっは、君は何を期待しているんだ。セクハラ連発間違いなしの大会でおにゃのこの入場を許可するわけがないだろう」
 俺が男汁百パーセントの空間で嗚咽していると、すぐ横で鼻に付く笑いが起こった。
「君が実況担当の秋葉純也君だな。僕は解説担当の佐藤だ、今日はよろしく頼むよ」
 隣の解説席に座っていた学ラン姿の男の顔は、よく見知ったものだった。額から禿が進行しつつあるくせに無駄に顔の良いメガネ。クラスメートで親友の佐藤伸太郎その人だったのだ。
「伸太郎……お前、何やってんだ」
「誰だい、それ。あいにくと、僕には佐藤幸太郎という名前があってね」
 同じ顔のコピー佐藤は怪訝そうな表情だったが、確かにプレートには『解説担当 下ネタ百科事典 佐藤幸太郎』とあった。パラレルワールドでドッペルゲンガーはベタ過ぎだろうと突っ込みそうになったが、まあいい、この顔とのコンビならやりやすいと思い直した。
 遅くなったがついでに自己紹介しておこう。俺の名前は秋葉純也、都内の男子校に通うきゃぴきゃぴの十七歳だ。体格は中肉中背、別に太っちゃいないし不細工でもない……本当だよ? そこ、彼女いない暦は聞かないで欲しい。言動から察してくれ。
「そうか、よろしくな佐藤。しかし、俺は実況なんてやったことがないんだが、大丈夫だろうか。自称神様に言われてホイホイついてきただけだし」
「気合とノリで乗り切れ。始まれば何とかなるさ」
「投げやりだな。あと親指立ててこっち向けるな、爽やかな笑顔が何かムカつく」
「ヨン様に匹敵するスマイルに何を言う。あとコレ、この通りに司会を進行してくれ」
 微妙にネタが古い佐藤が投げてよこしたのは、薄く二つ折りにされたプログラムだった。
「お前、そういうのがあるなら早く出せよ」
 俺が教室でやるようにネックブリーカーをかまそうとしていると、俺と佐藤のテーブルに、役員用のペットボトルのお茶と大福が置かれた。大福はやや大きめで、ふっくらした形がいかにも美味そうではある。置いてくれたのは、ふりふりスカートのメイド服姿が愛くるしいマッチョ野郎。
「役員も頑張ってるな。いよいよ大会だって気がしてきた」
 やっぱりアレ、役員なのか。想い出メモリーから一刻も早く消去したいぜ。
「それにしても、格闘技の実況か。難しそうだなぁ。付いていけなさそうだ」
 さっそくお茶を飲み始めた佐藤は、俺の漏らした不安にきょとんとした顔だった。
「いくら男限定の参加だからって、格闘技のような野蛮な事はしないぞ。内村さんに大会のルールは聞いていないのか」
「細かいのは聞いていないな。格闘技じゃないのか……ところで内村さんって誰だ?」
 ボトルの蓋を開けながら俺が聞き返すと、佐藤はリングの上の自称神様を指差した。どうやらもうすぐ始まるらしく、彼はマイクの音量テストをしていた。
「お前が言った神様だよ。さっき、一緒に会場入りしただろう。この大会で主審を務めるあの方が、この世界の神、内村てぃるよしさんだ」
 佐藤の言葉に、俺はあやうくお茶を噴出すところだった。
「内村てるよしって、あの某色白芸人の?」
「いや、あの某ブツブツニキビの相方じゃない。何度も言うが、内村てぃるよしさんだ」
「ギ、ギリギリだ……色々な意味で」
 訴えられたら多分負けるな、と俺は思った。誰が誰に訴えられるのかは知らないが。 
「ちなみに愛称はうちぴーさんだ」
「それアウトじゃね?」
 前言撤回。『多分』はいらなかった。
「ここ、ライトノベル作法研……ルノベトイラだよな。俺達、こんな会話してて明日の太陽をちゃんと拝めるのか?」
「平気だ。用意周到な事に、ちゃんとメールで許可を貰ってある!」
「それは誰に向けての言い訳なんだ」
 そんな事を言い合っていると、リング上のうちぴーさんがやや緊張した面持ちで俺達に手を振った。始めてくれ、ということらしい。俺は初めての司会進行に生唾を飲みながら、机の上のマイクをオンにした。ええい、ままよ。
「『えー、か、会場の皆様、長らくお待たせいたしました。いよいよお待ちかね、世界の未来を決めるエロの祭典が始まります。リング中央、うちぴーさんにご注目ください!』……こんな感じで良いのか?」
 隣の佐藤に小声で確認すると、「上出来だアキバ君」と笑顔が返ってくる。俺の言葉に反応してか、さっきまで高架橋の下のように騒々しかった会場が、水を打ったように静まり返った。
 うちぴーさんがマイクを口元へ持っていく。
「こんにちは。司会兼主審の内村です。皆様の妄想の決勝が、本日、とうとう実現いたします。エロは世界を救う。少子化も救う。えっちなのは断然いいと思います。……集え野郎共、萌えとかぽろりとか下着とか期待してんじゃねえぞ! 俺達の妄想パワーで明日から女の子をすっぽんぽんにしちまおうぜ! 今ここにルノベトイラ王国主催、銀河ギリギリ云々略してギリエロ大会本選を開催致します!」
『わああぁぁぁぁぁ!』
 悶々とした変態共の大歓声に包まれ、うちぴーさんは高々と両手を挙げた。
 拍手をしながら、俺はもう一度呟いた。何だこれ?

 リング上に椅子やマイクが着々と運び込まれていく。滞りなく進む試合準備を机から眺めていると、何をボーっとしてるんだ、と隣の佐藤が俺を突っついた。マイクで場をつなげという事らしい。素人に無茶な要求しやがってとも思ったが、こうなりゃヤケだ。プロ野球とボクシングとプロレスとで聞き慣れたそれっぽい実況をしてみる事にする。
『えー、解説の佐藤さん、いよいよギリエロ大会が始まりましたね。佐藤さんはこの大会をどう見ますか』
『とても重要なイベントですね。ここで十八禁という楔が取れるかどうかが決まるわけですから。優勝者によっては明日にも国中のありとあらゆるモザイクが消えるかもしれません。うはは。とにかく、我が国のオフサイドラインを決めるギリエロ野郎はいったい誰になるのか、私には想像が出来ませんが、今よりラ研の規定が緩くなることを期待しましょう』
 もうラ研でいいじゃん。
『では、ここでルールの確認をしておきましょう。佐藤さん、よろしくお願いします』
 先ほど聞きそびれたルールをここで佐藤におさらいしてもらうのは、我ながら上手い手だと思った。こういうところで機転が利くかどうかが、修羅場をうまく潜り抜けるコツだ。
『はい。勝負は一対一、基本的には選手同士が交代でギリギリのセリフを言い合って進められます。勝敗の決め方は、相手の台詞で元気になった方が負けということになります』
『元気になったら、とは?』
『試合は選手が向かい合って立った状態で行われます。彼らがなぜエロ台詞を言い合うのか、何故男同士の試合なのか、そのあたりを考えると分かりやすいでしょう』
 ……おい、まさか。
『つまり、前かがみになったら負けってことですか』
『俗に立ち往生と呼ばれる状態ですね』
 呼んでねーよ。
『ちなみに、そのセリフがセーフかどうかは主審のうちぴーさんが厳格にジャッジします。完全にアウトならレッドカードで一発負け、ギリギリアウトなら二枚で退場となるイエローカードを出されます。サッカーと同じですね。ちなみに今大会は各地で選ばれた猛者四名が一対一で対決する、いわば全国大会準決勝と決勝です』
 ということは、そんなアホな試合が三回も行われるのか。というか、全国各地で予選があったのが驚きだった。みんなヒマなのだろうか。
『なお、もうご存知かと思いますが、選手は全員ムキムキの男です』
 何でそこだけ良い笑顔なんだよ、この若ハゲは。

 そして、いよいよ試合開始の時刻となった。
 再びうちぴーさんからの合図を目にした俺は、プログラムに目を落としてアナウンスをした。
『それではこれより、準決勝第一試合を行います。両コーナーより選手入場。赤コーナー、……あ? ふ、フルーティ小林』
 選手名を見て何だこりゃと思ったが、会場右手の入り口からリングに上ってきた選手を見て俺は更に唖然とした。筋肉質のやたらガタイが良いスキンヘッド男が、ブーメランパンツ一枚の半裸でリングに上がったのだ。手には何故かかごに入れられたフルーツ盛り合わせを持っている。見事に蓄えられたあごひげとその顔つきは精悍そのもの、下半身さえ見なければダンディと言っても良いだろう。観客席からは大きな拍手が沸き起こったが、俺から見れば百パーセント変態だった。
 気を取り直してプログラムの対戦相手名を見ると、やはり腰砕けな名前だった。
『青コーナー、し……シスター中西』
 反対側のコーナーから、水色と白の縞模様のブーメランビキニを履いた、ガチムチボディビルダーみたいな男がリングに上がる。こちらはアニメ絵の女の子のマスクを被っており、大胸筋の発達した胸にはマジックで大きく「いもうと」と書かれていた。正直意味が分からない。路上にいたらお巡りさんを呼んでも冤罪にはならないレベルだ。
『佐藤さん、あの中西のマスクは何なんでしょう』
『あれは[魔法少女のぞみちゃんブレイク!]の主人公、桜井のぞみですね。魔法少女というよりは、むしろおにいちゃんを溺愛する妹キャラとして人気です』
『いや、正直分かりませんが、近頃流行の萌えというやつなのでしょうか』
『違いますね。妹萌えは下劣なものでなく、例えるなら哲学です』
『一回死んだほうがいいのでは?』
 プロレスリングに立ち、見つめあう二人のマッチョ。その間に二枚目レフェリーうちぴーさん。コレだけ見てプロレスだと言われたら信じるが、何せ片方はフルーツコレクター、片方は筋骨隆々の美少女仮面である。うちぴーさんの表情がすでに「もうやめてくれ……」と言いたげなのも俺の見間違いではないだろ……あれ、ちょっと笑顔だ。
「良い試合をしましょう」と握手を求める中西の手を振り払い、小林はギロリと睨みつけた。やれやれ、どこの世界にもこういう不逞な輩はいるものだ。中西は大げさに肩を竦めてみせた。
「両者、よろしいですね。それでは時間無制限一本勝負、ファイトッ!」
 うちぴーさんの掛け声とともにゴングが鳴らされた。
 開始早々、フルーティ小林が低い声で叫ぶ。 
「メロン!」
 は?
 意味が分からなかったが、会場の観客が大きくどよめいた。 
『さあ、試合が始まりましたが、フルーティ小林が何か言いましたね。これはどういうことでしょうか、解説の佐藤さん』とは実況の俺。何だか慣れてきたぞ、このノリ。
『早速出ましたね。あれがさまざまなエロスを果物で表現する小林の得意技、フルーツトロープです。妄想力の賜物、後は官能小説の読みすぎですね』
『……はあ。中西は仁王立ちのまま聞いていますが、特に変わった様子はないですね。マスクのため、その表情は見えませんが』
『妄想したら負けですからね。おそらく、必死で平家物語序文や原子周期表をそらんじているのでしょう』
 俺達が実況席で言い合っている間も、試合は続いている。
「たわわに実った二つのメロンがぷるぷる揺れる!」
「初めてのキスは桃とレモンの香り!」
「ふはははは、バナナは嫌いか小娘ッ!」
 うちぴーさんの手は上がらない。このくらいならオーケーということだろう。腕組みのまま微動だにしないシスター中西に、小林はなおもたたみかけた。リングに派手な動きがなく。睨み合ったマッチョがただ叫んでいるだけの光景はえらくシュールだった。妄想モードに突入し始めたのか、歓声を上げていた観客が段々無言になっていく。
 やっぱり帰りたい。
 そう思ったとき、ふと小林の連続攻撃が止まった。中西が何の反応も示さないことに気づいたのだ。そのスキを縫って、中西の口がゆっくりと開いてゆく……。
「おにいちゃん、らめぇ」
 合唱で言えばアルト担当であろう、渋いとは言いがたいが、それでも男のものにしか聞こえない若々しい声が「らめぇぇ」などと口走った。活字ではこの鳥肌具合は上手く表現できないが、とにかく恐ろしい攻撃なのは間違いなかった。
『おおっと、いきなり中西のターン! シスターの名に恥じない攻撃だ!』
「そんなところいじっちゃ、ら、らめぇぇぇ!」
 中西が続けざまに叫ぶ。
『そ、そんなところとか言っていますが、これは一体どこなのでしょうか佐藤さん』
『当然、公共放送では言えないようなところでしょうね。漫画でも伏字にされるレベルだと思いますよ』
「…………くっ」
 ちょっと元気になってしまったらしく、小林の姿勢がわずかに崩れた。うちぴーさんが「続けられるか?」と確認している。
『だめぇをらめぇ、ですか。本来ならコレは難しい誤りなんですよねぇ。[だ]は破裂音で[ら]は弾き音ですから、同じ舌尖を使うとはいえ構音様式が全く異なります。ありえないです』
 冷静に解説しながら、どうしてお前まで少し前かがみなんだよ。
「く、くそっ。チェリー、メロンに乗った小粒のチェリー! キウイのようなザラザラの手触り! パイナップル的ベトベト感!」
「ふっ、そんなものか。やはり、礼儀を知らない人間の攻撃は妄想できないな」
 中西の態度には、どこか余裕すら感じられた。
『フルーティ小林、焦ったように反撃を繰り出しますが、中西には効いていませんね。というか、彼のセリフの意味が分からなくなっているのは実況担当の私、秋葉だけでしょうか』
『今日の小林はキレが悪いですね。修飾語が足りないので、大きなメロンの甘さや柔らかさではなく、ゴツゴツ感しか伝わってきませんよ。これでは中西も元気になりません』
 佐藤が解説を挟む。今日の、って小林はそんなに有名人なのか。
「これならどうだ。まな板レーズン!」
 苦し紛れに小林が言い放つと、一瞬、中西の体がピクリと動いた。小林サイドの観客から声援が上がる。まな板レーズンって、アレか? 俺は疑問に思いながらもマイクを取った。
『おっと、この攻撃はわずかながら効いたようです。佐藤さん、今まで微動だにしなかった中西ですが、これはどういうことでしょうか?』
『ええ、私も今気づきました。いもうと攻撃を繰り出していることから想像は出来たはずなのですが、うかつでした。彼が好むのは、メロンよりもおそらく』
『そうか! いもうとといえば年下、幼い、つまりはまな板が好きということですね』
 俺の言葉に、佐藤は我が意を得たりというように不敵に笑った。
『さすがは、おっぱい職人の秋葉さんですね。理解がお早い』
 勢いづくフルーティ小林だったが、中西の弱点をつかんだのは一足遅かったらしい。美少女マスクの下から、シスター中西のダンディな声が身の毛もよだつセリフを連発した。
「おにいちゃん、お布団入っても良い?」
「えへへ、あったかい……あれ、これ何だろう」
「……痛いけど……おにいちゃんがしてくれるから……頑張るよ。えへへっ」
『これって何だァァ、痛いって妹に一体何をしたんだおにいちゃん! 仁王立ちポーズと美少女フェイスが全く変わらないのが余計に怖い! しかしこの攻撃、ラけ……ルノベトイラ的にどうなんでしょう?』
 レフェリーであるうちぴーさんはしばし逡巡したが、そのまま試合を続行した。
『セーフ、セーフです! イエローも出ません!』
『湯たんぽとマッサージだよと言われたら反論出来ませんからね。これは中西を褒めるべきです』
 小林の姿勢は、すでに前かがみ率八十パーセントにも達していた。手に持ったカゴからりんごやらナシやらがボトボト落ち始める。それでも彼は自らを鼓舞し「こんなところで負けられるか!」と叫んだ。俺は少しだけそこにアスリートとしての誇りを垣間見た気がした。
「くそ、負けてたまるか。俺がラ研のエロを限界突破するんだ! オレンジ色の甘い果実、完熟マン……」
 悲壮な覚悟で小林が叫びかけた瞬間、会場に甲高い笛の音とゴングが鳴り響いた。
 うちぴーさんが胸ポケットからレッドカードを出し、小林に突きつける。小林の目が驚きと絶望に見開かれ、彼の膝は完全に地面に落ちてしまった。
『ああーっと、これはアウトだったー! 対戦相手の反則により、試合を制したのはシスター中西となります!』
『意外でしたね。どうやらうちぴーさんの中では、そのものズバリに近い表現はレッドカードみたいです。小林も途中までは健闘していたのですが、中盤からの劣勢のあまり勝負を焦ったことが敗因となりました。それでも、あの中西相手に彼は良く戦いましたよ』
『言い回しが気になりますが、そうですね。この試合は明らかに中西がリードしていましたが、小林が必死に食い下がりました。変態戦士としてのプライドがそうさせるのでしょうか、素晴らしい根性でした』
 根性かどうかは知らないが、俺はとりあえずそう言っておいた。すると、佐藤がこともなげに大事な事をぬかしおった。
『そりゃあそうでしょう。ペナルティは嫌でしょうから、誰だって必死ですよ』
 ペナルティ? そんなものがあるとは一言も聞いてないぞ。
『敗者には罰があると言うことですか。それはいったいどんな?』
『簡単に言いますとね、負けてしまった方は、うちぴーさんがじきじきに魔法を掛けるのです。すると』
『すると』
 佐藤は学ランのズボン付近に目をやり、悲しげに呟いた。
『波動砲の最大発射角度が、マキシマム時より五度ほど下がってしまうんですよ』
『……地味にイヤなペナルティですね』
『ええ、すごくもどかしいと思います。女性には分かりにくいかもしれませんが、思わず[立て、立つんだジョー!]くらい叫んでしまいたくなるでしょうね。まあ、世界のエロを決める権利を狙うからには、それくらいのリスクと覚悟を持って戦って頂きたいですね』
『……』
『まあ、年を取れば誰でもそうなるわけですが』
 俺と佐藤はやれやれと肩を竦めた。俺なら確実に鬱になる。
 万雷の拍手と歓声の中でうちぴーさんに勝ち名乗りを上げられるシスター中西とは対照的に、敗者であるフルーティ小林は静かにリングを去っていった。これから小林はマイナス五度のもどかしい人生を歩む事になる。それでも、彼はエロを究めようとした。その覚悟の勲章だと思えば、少しだけカッコよく見えてくるのが不思議だった。変態だけど。
 あんたはよく戦ったぜ、フルーティ小林。変態だけど。

 興奮と汗臭さが覚めやらぬ中、うちぴーさんが再びマイクを取って合図を送る。今気づいたが、俺、実況だけでなくアナウンスもやってないか?
『疑問を持ってはいけませんよ、秋葉君』
 心を読むな。
『……さあ、休む間もなく準決勝第二試合が開始されようとしています。両コーナーより選手入場。赤コーナー、コケティッシュ・フェティッシュ斉藤!』
 第一試合同様に、変態共の歓声の中、右手の入り口からパンツ一丁の肉体美が入ってきた。よく見ればドラマに出てきそうなイケメンだったが、何故か股間にコケシが縫い付けられ、両手にはボックスティッシュが五パック入りで下げられていた。
『斉藤の格好ですが、コケティッシュとフェティッシュの意味を勘違いしてきましたね。思春期にありがちなミスですが、残念です』
『正直どうでもいいです。そろそろおにゃのこが見たくなってきました』
 正直、ボディと変態性のインパクトが強すぎて顔の印象があまりに薄い。ちなみにコケティッシュは女性の色っぽさ、フェティッシュはフェチの対象だそうだ。何のこっちゃ。
『続いて青コーナー、オノマトペ伊集院!』
 俺が名前を告げたとたん、ひときわ大きな声が上がった。
 左手から一際体格の良いマッチョが現れ、悠然とリングに向かった。その巨大な三角筋と大胸筋、しっかり割れた腹直筋に映える真紅のパンツが貫禄を見せている。黒のサングラスをしているため顔はよく見えないが、一撃必殺の凄腕スナイパーのような威圧感を覚えた。
 こいつは強い――そう思わせる風格だ。どう強いかはあまり想像したくないが。佐藤いわく、オノマトペ伊集院は優勝候補筆頭らしい。
『どうしてみんなことごとくマッチョなのだろうという疑問はさておいて、オノマトペというのはどういう意味なのですか佐藤さん』
『オノマトペとは、擬音や擬態語のことですね。つまり[ごはんをくちゃくちゃ食べる][ごはんをもぐもぐ食べる]という文があったとき、前者は擬音、後者は擬態語となり、これらをあわせてオノマトペと呼びます』
『解説ありがとうございます……ところでさっきから気になっているのですが、伊集院の頭部で動いているアレは一体何なのでしょう』
 よく見ると、角刈りの伊集院の頭にはカチューシャが乗っており、そこには二つの突起がぴこぴこと動いていた。ふわふわの毛に包まれた綺麗な三角形をしている。
『あれはネコ耳ですよ。ご存知ありませんか、アキバさん』
 何故哀れむような目で俺を見る?
『黙れこのハ……失礼しました。少なくとも、プロレスラーみたいなヤツが付けているのは初見ですね。あれではネコ耳ザンギエフですよ』
『しょうがないでしょう、趣味は人それぞれですから。ちなみに彼、プライベートでは語尾に問答無用で[~にょ]を付けますよ』
『おなかいっぱいです』
 リング上で睨み合う斉藤と伊集院。斉藤が思い切りガンを飛ばしているが、伊集院のサングラスの奥は揺らぐ気配がない。波濤のように会場に轟く伊集院コールが、斉藤を内心焦燥に駆らせているのだろうか。 
「それでは準決勝第二試合、時間無制限一本勝負――ファイトッ!」
 中央のうちぴーさんが手を振り下ろし、ゴングが鳴らされた。同時に、斉藤が若者らしい高い声で、しかし静かに訥々と語った。
「制服の襟元から覗く、浮き出た白い鎖骨……コツコツしたり人差し指を引っ掛けたいですよね」
 教室で親友に話しかけるような語り口調は、かのローズヴェルト大統領のラジオ放送を彷彿とさせるものだった。聞いたことないけど。
『斉藤、いきなりフェチ全開の妄想攻撃で攻めましたね』
 男だらけの会場が急に静かになった。妄想モードに入ったようで、いずこからか溜め息の漏れる音。隣の佐藤にいたっては目を閉じて――ってコラ解説、試合を見ろ。
 あああ、うちぴーさんまで良い笑顔になっている!
「乱れた和服の襟からのぞくえりあし……ああ、ふわふわのところを押さえつけてショリショリしたい……!」
『斉藤の声のトーンが上がってきました。イケメン斉藤、顔に似合わずマニアックな欲望を口にしています!』 
「ほんの少しグロスを塗ったふっくら艶やかな紅い唇、可愛い子のそれをじーっと眺めた後に突然指でつまんでぷるんってしたい! そんでその後に何するのよこの馬鹿とか言われてめちゃくちゃに怒られたいッ!」
 会場全体が静まり返り、恍惚とした雰囲気に包まれた。
『えっと……共感できない私はどう実況すればよいのでしょうか』
『出ましたね。斉藤得意の三連コンボ、相変わらず良い味を出しています。個人的には、彼にエロ規制を任せてみても面白いかなと思うのですが』
 いつの間にか佐藤が復活し、口を挟んできやがった。
 しかし、こんな分かりにくい趣味のヤツに未来を決められてたまるか。俺の趣味はあくまで直球なんだよ! 消え去れモザイク、なんだよ! 俺はそう叫びたい衝動を抑え、実況として落ち着いてマイクを握った。
『しかし佐藤さん、伊集院は若干前かがみにはなっていますが、それでも姿勢は崩れていませんよ。彼の攻撃はピンポイント集中型なのでは?』
『本当ですね。伊集院ほどの使い手になると、耐久力も自制心も半端ではありません。これは授業中やプールの時間の我々も見習うべきでしょう』 
「なんだよ、なんで倒れないんだよ、おっさん!」
 効果がない事を悟ったのか、斉藤が苛立ったように叫んだ。股間のコケシが揺れる。
「さあ、どうしてだろうね」
「く……ひらひらのスカートから伸びた足先に輝く小さな指! ぶかぶかのセーターの袖から見える指、それも第二関節から先! おまけに[寒いね~]のセリフ付きだッ」
「無駄な足掻きはよしたまえ」
 伊集院はうっすらと笑みを浮かべ、会場によく通る声で呟いた。
「ふふ、若手のホープと聞いていたが、こんなものか。うちぴーさん、申し訳ないがマイクをお貸し頂きたい」
 ネコ耳ザンギエフもとい伊集院は、マイクを受け取るとそのまま口元に持っていった。
「力というものを見せてやろう。目を閉じたまえ」
 何が始まるのだろう、どんな恐ろしい技が待っているというのだ。俺と佐藤が同時に生唾を飲み込んだ瞬間、それは響き渡った。
「……くちゅ」
 会場に広がる怪しげな水音に真っ先に反応したのは、素直に目を閉じた斉藤だった。ぐあぁ、と苦しそうに股間を押さえている。伊集院の唾液と唇が、えらいことになっていた。 
「ぺろ……ぴちゃ」
「ちゅぷ……ちゅぷ……」
「んふ……ちゅっ」
『なんだ、コレは何の音なんだ! 伊集院の色気も何もない薄い唇が、なにやら卑猥な擬音を奏でているッ!』
 やばい、これは。
『これが伊集院の真骨頂、オノマトペです! 気を付けてください秋葉さん、この技は我々も……くっ』
 瀕死、というか元気な佐藤が忠告してくれたが、時既に遅し、我慢する間もなく俺まで元気になってしまった。ちくしょう、なんてこった。この音が奏でるシチュエーションはアレしかないじゃないか。わずかに想像しただけで、俺の波動砲が容赦なく天を仰いでゆく。
『しまった。不覚にも、この俺が……! 何という無差別攻撃、何というエロボイスパーカッションでしょうか』
「あむ……むぐ…………………………お、大きいよぅ」
「くっ」
「ふあああぁぁッ」
 伊集院がフィニッシュを決めた瞬間、苦痛の叫び声とともに、斉藤の前の地面が彼の吐いた血で染まった。「何故吐血?」とツッコみたくてもそんな余裕などない俺。必死で耐えていた斉藤の両膝がガクガクと震え、やがて彼は消え入りそうな声で呟いた。
「も、もうやめてくれ、もうこれ以上は元気にならねぇ」
 既に片膝立ちになっていたうちぴーさんの笛が息も絶え絶えに鳴り、伊集院の圧倒的勝利を告げた。俺は命からがら波動砲を収納し、マイクに向かった。
『……ギブアーップ! 斉藤、元気になってしまってぴくりとも動けない! 伊集院、イエローカードギリギリの攻撃が見事に決まりました。瞬殺、瞬殺です!』
 しかし歓声は一向に上がらない。男だらけの会場は、呻き声と阿鼻叫喚が入り混じった陰惨な地獄と化していた。みな妄想の嫁と一戦交えたのか、股間を抑え悶絶している。
「ふん、ぬるいわ。世界のエロは私が変えてみせる。小僧、そこで指を咥えて見ているが良い」
 勝ち名乗りを上げるまでもないといった様子で、伊集院はリングを去ってしまった。後に残されたのは放心状態の敗者と、ちょっとすっきりした顔の神様。隣で佐藤がむっくりと起き上がった。
『……ふぅ。何の音なのか考えると悶々としてしまう、見事な攻めでしたね。最後の[大きい]と苦しそうに呟くのも実に効果的な攻撃だったと思います』
『ええ、僕も思わず[何がどう大きいんだい? ふふふ]と意地悪く聞いてしまいそうになりました。さすが、佐藤さんが仰る通り優勝候補なだけはありますね』
 プログラムに目を落とし、それから会場に向かってアナウンスを続ける。
『これで、決勝はシスター中西とオノマトペ伊集院の戦いとなりました。エロボーダーラインを決めるのはどちらになるのでしょうか。それではここで一旦休憩となります』

 ざわめきの冷めやらぬ会場。うちぴーさんがスタッフと打ち合わせる中、俺は疲れて椅子にもたれかかった。俺は隣の佐藤に「疲れたな」と声を掛けた。
「マッチョばかり見ていて胃と眼球と脳がもたれ気味なんだが、なんとかならんか」
「我慢しろ秋葉君、俺だってスクール水着が見れないにもかかわらず頑張っているんだ」
「口直しに、えっちな書籍を購入してきてもいいだろうか」
「却下だ」
 メイド服の男が置いていったペットボトルの茶を口に含み、皿の大福を手に取ってみるが、食欲などなかった。奴らの馬鹿馬鹿しくも熱いエロにあてられたというべきか。
 そこで、ふと気になった事を聞いてみた。
「なあ、何であのマッチョどもはあんなに頑張ってるんだろうな」
「ん? エロ規制の緩和と調整のためだろ」
「それはそうなんだけどさ。誰が優勝しても、『何でもあり』にしちまえば手っ取り早いじゃないか。こんな大会を行う必要もない」
 ガキだなぁ、と佐藤が皮肉っぽく笑う。
「誰も、全ての解放なんて望んじゃいないのさ。ボーダーラインを引くポイント、そこを自分が一番ドキドキするラインに持って行きたいから、みんな戦っているんだ。秋葉君さ、河原でエロ本見つけたことがあるか? 風雨に晒されてカピカピのバリバリになったやつ」
 佐藤のことばに思い当たるふしはあった。中学生の頃、川沿いの橋のたもとにそういうスポットがあって、悪ガキ仲間とよく探しに行ったものだ。見つけたボロボロのエロ本は、仲間と分け合ってこっそり持って帰ったっけ。懐かしいなあ。
「あれを開くとき、破れないように慎重に剥がしていくんだけど、すげえ興奮するんだよな。本当は見ちゃいけないものなんだっていう背徳感、大人に隠れて見ている罪悪感、そういうのがスパイスになってるんだろう」
「確かにあるかもな、そういう効果は。隠れされたものは見たくなる、そういう心理か」
「教師、看護師、スチュワーデス。義妹、義姉、場合によっては義母もそうだ。チャイナドレスのスリット、浴衣のたもと、パンティの奥、ブラジャーの中身。禁止された先に夢があるということは、線引きがなければその興奮も味わえないんだ。ルールは破るためにあると言う人間がいたが、つまりはそういうこと。規制の先に、本当のエロがある。俺はそう思う」
「ふうむ。分かるような分からないような……そんなものか」
「ま、優勝者が俺と同じ考えかどうかは知らないけどな。個人個人でこだわりのルールは持っているが、全開放ってのはないと思うぜ。それに、誰かがルールの枠を作れば、またその中でギリギリを楽しむ術が生まれる。ふてぶてしいんだよ。男なんざ、そんなもんだ」
 佐藤は「なるようになるさ」と俺の肩を叩いて言った。
 全部見えてしまえば良いのに、この世界に来るまで、俺はそう思っていた。モザイクが邪魔でしょうがなかった。今もその考えに変わりはない。だけど。
 チラリズムというのも案外良いかもしれないな、そう思い始めていた。

 そして――うちぴーさんがリングに三度上がった。俺を無理やりこの世界に導いた神様が、俺に目線で合図を送る。俺は最後となるであろう試合の始まりを、汗臭い会場に告げた。
『皆様、長らくお待たせいたしました。いよいよ銀河云々、略してギリエロ大会決勝戦をとり行います。両コーナーより選手入場。右手赤コーナー、』
 息を吸う。
『シスター中西!』
 割れんばかりの歓声が、堂々と入場してくる中西を包んだ。エロとは全く関係なさそうな、プロレスでもやっていけるだろう圧倒的な体躯。ただ、準決勝とは異なっている点があった。胸の「いもうと」が「そろそろ食べごろ」と更に意味不明になっていることと、もう一つ。
『中西の被っているマスクが変わりましたね。茶髪でショートカットのこれまた美少女ですが、佐藤さん、あれは一体?』
『秋葉さんも気付きましたね。あれはアニメ[魔法少女のぞみちゃんブレイク!]のキャラである高野ひかりです。桜井のぞみの幼馴染みで、のぞみの兄に密かに憧れているのですが、のぞみ同様、彼をおにいちゃんと呼んでいます。いやいや、けなげなキャラで私は大好きなんですが、ひかりとおにいちゃんの出会いは二年前、ある雪の日に公園でおにいちゃ』
『佐藤さんが暴走している間にも、青コーナーより選手が入場しています。ルノベトイラ最強の擬音使い、オノマトペ伊集院!』
 伊集院の入場に、観客は落ち着かない様子である。先ほどの攻撃の余韻がまだ残っているのだろう。こっちのマッチョは相変わらずのネコ耳サングラスであるが、その下から鋭い眼光が中西を射竦めているような気がしてならなかった。それにしても、何故彼はあんなにも堂々としているのだろう。くそ、きゅっと引き締まった良い大殿筋をしてやがる。
 リングに上った伊集院に、中西が握手を求めた。一回戦と同じ光景だが、伊集院はにやりと笑ってその手を握り返した。パンツ一丁の変態マッチョ同士だということを忘れていればとても爽やかなその光景に、会場から拍手が起こった。
「ふん……少しは手ごたえがありそうだな。楽しませてくれよ、中西君」
「こちらのセリフですよ、伊集院さん。あなたには悪いが、今日は僕が勝たせてもらいます。ラ研の歴史を作るのは僕ですよ」
 拳を軽く合わせ、両者は離れる。さて、ここでツッコんでおかなくてはなるまい。
『中西が何か言っていますが、あくまでもこの世界はルベノトイラです。ね、佐藤さん』
『え? ルベ……何ですか?』
『お前らそろそろ良い加減にしろォォ!』
 シスター中西とオノマトペ伊集院。世界の覇を狙う二人の間に、うちぴーさんが歩み寄った。
「泣いても笑っても、この試合の勝者が全てを決めます。よろしいですね」
 俺、佐藤。中西。伊集院。うちぴーさん。手に汗を握る観客。全ての人の喉元から、生唾を嚥下する音が一斉に聞こえた気がした。
「それでは決勝戦、時間無制限一本勝負。ファイト!」
 うちぴーさんの声が試合開始を告げ、ゴングが鳴った直後、若々しい声が会場に響いた。
「せっかくだから、お布団一緒に入ってもいい、おにいちゃん? ……え、あんな映画を見ちゃったから……怖いんだもん」
 中西が仁王立ちのまま言い放つ。声こそ男のものだが、抑揚とタメの効いたそのセリフには、彼の魂がこもっていた気がした。会場の一部が早速前かがみ気味になる。
『シスター中西の先制攻撃! これはもしやお泊りイベントでしょうか』
『そうでしょうね。胸の文字やマスクからみて、ひかりちゃんとおにいちゃんのラブラブキドキフラグだと思われます。ちなみに設定ではひかりちゃんは十二歳なので、現実におにいちゃんが手を出した時点で完全にお縄頂戴ですね。それにしてもこの場合、おにいちゃんの実の妹であるのぞみちゃんはどうしてしまったのでしょうか』
『佐藤さん、どうでも良いところを推察しようとするのはやめてください』
 俺が佐藤にツッコんでいる間にも、中西は攻撃の手、じゃなかった口を緩めない。
「おにいちゃん、もっとくっついてもいい? ……えへへ、あったかい」
『こ――これは個人的に萌えます! たとえそこに豊満なおっぱいがなくても、この秋葉純也、幼馴染みのいもうとキャラと抱きしめ合う様子を妄想して、恥ずかしながらちょっと元気になってまいりました!』
『若いですね、秋葉さん。しかし、伊集院にはそこまでのダメージは無いようですよ』
 中西が苦しげに攻撃を終えると、それまで動かなかった伊集院が、耳をぴこぴこさせながらマイクを取り出した。反撃に転じた魔性のエロボイスが、中西だけでなく会場を襲う。 
「しゅる……しゅるしゅるっ……ぱさ」
『しかし伊集院も黙っていない。伊集院、掟破りの状況描写だ!』
『この音は衣擦れですね。ブラウスに手が掛けられたところでしょう。そろそろ下の』
『余計な解説をしないで下さい、妄想してしまいます!』
「ぷち……ぷち……ぱさっ」
「よいしょ。あれ、難しいなぁ。うんしょ、と」
「……ね。背中、外してくれる? 留めるのは出来るんだけど、逆って案外難しいんだよね」
 伊集院の三連撃に、会場がどよめいた。中西が若干前かがみになっていたのだ。うちぴーさんが判断に悩み、その手が小さく動揺しているのが見て取れた。まさにギリギリの攻撃である。
『伊集院、アドリブを挟んできました! オノマトペだけでなくセリフ音読も習得していたようです。背中を外してというと、状況的にアレしかありませんよね佐藤さん』
『アレです。近頃流行のフロントホックも捨てがたいですが、やはり基本は抑えておくべきですね。ちなみに私、いつか来る未来に備えて、目を瞑って外す練習を毎日欠かさず行っております。この技はシャドウ=アンロックとい』
『試合は続いていきます。おっと、中西がちょっと持ち直しました』
『ダメージは大きいようですが、さすがの集中力ですね。回復技として最強レベルの、自分の母親でも想像したのでしょうか』
 立ち上がった中西の息が荒い。美少女マスクで顔は分からないが、三連撃で相当疲弊しているようだ。伊集院が意外だと言った様子で口笛をひゅうと吹いた。
「ほう、やるな」
「くそ、セリフまで扱えるとは、さすが伊集院さんだ……しかし僕だって負けられない! 縞々ぱんつの着用を義務化するまでは!」
 中西が深呼吸をし、攻撃に移った。声のトーンがいきなり変わる。
「おにいちゃん、夜のお医者さんごっこしようよ。あたしが患者さんね! ……ひゃっ、それ冷たいよぅ」
 ピィィィッ、とけたたましい笛が鳴り響いた。内股気味のうちぴーさんがイエローカードを中西に突きつけている。中西は覚悟していた様子で頷いたが、その目線の先には片膝を付いてしまった伊集院の姿があった。
『おおっと、警告がでました! もう一枚警告が出れば反則負けですが、しかし捨て身のギリギリ攻撃は伊集院に届いている! 元気になっちゃったのか、片膝ついて若干前かがみだ!』
『[夜の]という接頭辞が引っかかってしまいましたね。コレが付くと大抵のことばがエロくなってしまうのです。まさに虎穴に入らずんば虎子を得ず、ですよ』
「くっ、やるな。お医者さんごっこを使ってくるとは、さすがロリコンの鏡だ。レフェリー、マイクを!」
 イケメンレフェリーうっぴーさんを急かし、伊集院がマイクを握った。どうやら大音量で技を……今、どえらい間違いを犯してしまった気がしたが、気のせいだろうか。
 伊集院は「出来ればこれは使いたくなかった。作者の日常を疑われるからな」と意味不明な呟きを口にし、そして――開口した。 
「受けてみるがいい!『くぱぁ』」
「な、何だと?」
『ああーっと、この攻撃は! 中西危ない!』俺は思わず悲痛な叫びを上げてしまった。俺と同様、生命の危機を感じたのだろう、佐藤がマイクで大声を張り上げた。
『みんな、耳を塞げッ! 逝っても知らんぞー!』
 会場から悲鳴があがる。やばい、それだけはやめてくれ。明日から作者はどうやって生きればいいんだ。ただでさえ変態の烙印を押されてるんだぞ……! 
「ぬる……ぬりゅ……」
「ひゃんっ」
「ずぷ……っ」
「ふぇぇえぇ」
「ずちゅ……ぐぷ……」
「ひゃあっ……くぅ……ん……ああっ」
 そんな俺の願いもむなしく、伊集院は連射テポドン並みの言霊を繰り返した。俺は「落ち着け、落ち着くんだジョー!」と自らをなだめながらマイクに向かった。 
『な、何という連続攻撃でしょうか! 凶器と化したオノマトペと嬌声が中西の股間を襲う! かく言う私も元気ハツラツで限界に近いです。ちなみに解説の佐藤さんは、我慢するも及ばず、先ほど遠い世界へ旅立たれてしまいました……ッ!』
「コレで最後だ、奥義! 『――ふあぁぁぁぁッ』」
「ぐああ……っ」
 伊集院のとどめで、中西の両膝が完全に地面に崩れた。そのまま静かに倒れていく彼の肢体。
『中西、ダウンしてしまったぁ!』
 戦闘可能かどうかを確かめに、息も絶え絶えのまま中西に走り寄るうちぴーさんだったが、伊集院がそれを制して首を振った。
「終わりだ。うちぴーさん、もうよかろう。彼は良く頑張ったが、ここまでだ」
 うちぴーさんが無言で頷き、胸の笛に手をかけた、まさにその時だった。
「ちょっと、待ってくださいよ。そのジャッジは尚早じゃないですか、うちぴーさん」
「何?」
「僕は……まだ、戦える」
 ざわめく会場。そこには、笑い出す膝を必死で押さえつけながら、元気になる己自身を封じ込めながら、よろよろと立ち上がる中西の姿があった。マスクはすでにボロボロになり、血で染まった彼の素顔が少しのぞいていた。
 オーケィ、ここらで一度言わせてくれ。何で吐血とか怪我とかしてんの?
「縞ぱんを世界に広めるまでは、このブーメラン縞ぱんにかけても、僕は負けられない!」
『中西、逝きそびれましたッ! それから何故か扱いが主人公クラスのカッコよさだ! 思い出してください皆さん、この作品の主役はこの俺、あき――』
『なーかにし! なーかにし!』
『ろーりこん! ろーりこん!』
『しまぱん、しまぱん、ハイハイハイハイ!』
 会場から割れんばかりの中西コールが起こり、俺の主張を遮った。
 ふらふらの中西を見て、伊集院の表情が凍る。まさか、有り得ない。そう言いたげであった。
「馬鹿な。あれを食らって、まだ立ち上がると言うのか。お前は一体……」
「ふふふ、ただのロリコンマスクですよ。逝きます、伊集院さん! はあああああッ」
 中西が雄叫びをあげ、それから自分の胸にそっと手をやった。
「……あたしの胸、もう大きくならないのかなあ……揉まれれば大きくなるっていうけど……(ちらり)」
「ぐふッ」
 な、なんて反撃だ。ないちちってところが少し気にかかるが、同じ男として尊敬するぜシスター中西。
『瀕死のちらり攻撃に、伊集院が再び片膝を付いてしまいました! これはうちぴーさんの右手は上がりません、セーフです! 伊集院に大きな隙が出来てしまった!』
「むぅ……これでもちょっとは大きくなったもん。おにいちゃんのバカっ」
「えと、ど、どこ触ってるのかなぁ。それ、おなかじゃないんだけど……んッ」
 チャンスと見たか、中西が怒涛の連続攻撃を繰り出した。そして禁断のおねだり攻撃。
「おにいちゃん……さわって……」
 こ、これは色々とまずいだろう! だいたいどこをだ。頭か、頭なのか? そう思ってうちぴーさんを見ると、悶絶しながらもその手をイエローカードにかけて――そのまま降ろした。
『ぎ、ギリッギリだーッ! ギリギリセーフ!』
『これであと一歩間違えたら、アウトかつ即削除だったでしょう。まさにギリギリマスター、オフサイドラインの魔術師ですね』
『解説の佐藤さん、もう回復したんですか!』
「ぐおお……ま、まさかこの俺が」
 吐血する伊集院。いや、だから何で?
「あなたの敗因は、性に傾倒するあまり、萌えの技術を甘く見たことですよ。そのネコ耳を、十分に活かせたら良かったのに」
 中西はマスクに手をかけ、取り去ってしまった。衆目の元に晒された初々しい素顔の好青年は、これが最後の攻撃です、と呟いた。
「おにいちゃん……だいすき! えへへっ」
 ありがとうございました伊集院さん――最後にそう叫んだ中西は、マスクにしわが寄るほどの良い笑顔でフィニッシュブロウを決めたのだった。
 くずおれる伊集院。ネコ耳がちぎれ、サングラスが割れた(いやだから何でだ)その表情は、とても素敵な笑顔に満ちていた。
 笛の音とともにゴングが鳴り響く。最後に立っていたのは、エロを絡ませながらもいもうと萌えを貫き通したガチムチボディビルダーだった。俺の視界は、いつの間にかあふれた涙でぼやけていた。俺の、この世界での最後の実況が、会場を揺らす。
『決まったぁー! 奇跡の大逆転! 優勝はロリコンの希望の星、シスター中西!』
『最後の最後に大技が決まりましたね! 一生に一度は言われて見たいセリフ[だいすき]、華麗に決まりました! エロスに萌えを組み合わせれば最強であることが証明された瞬間ですね。これほどまでギリギリな試合の解説を出来たことを、私は誇りに思います』
 いや、お前途中から天国逝ってたじゃん。
 会場から湧き上がる歓声と拍手。誇りと欲望をかけて戦い抜いた後には、敵も味方もなかった。中西が起き上がろうとする伊集院に歩み寄り、手を差し伸べた。伊集院が「ちくしょう、見事だったぜ」と苦笑した。手を取り合う二人の戦士たち。その光景には、俺も拍手せざるを得なかった。
「まさか、この俺が負けるとは思わなかったにょ……若い中にも、根性の座ったエロスはいるんだにょ。ちょっとだけ見直したにょ」
 伊集院……ここまできていきなりそれはないだろう。
 うちぴーさんが拍手しながら、「素晴らしい試合だったよ、二人とも」と声をかけた。
「シスター中西君、優勝おめでとう。これで、ルベノトイラのエロは君に託されたわけだ。後ほど、私の部屋へ来てくれたまえ。今後の方針に付いて教えてもらおうじゃないか」
「はい、わかりました」
 中西が笑顔で答えた。伊集院が「世代交代みたいだにょ」と少し寂しそうに呟いた。
「それにしても中西君、最後の反撃は見事だったね。かなり判定に迷う際どい攻撃だったが」
「ありがとうございます。正直、最後のコンボは冷や冷やでした。いつ検閲削除されてもおかしくないですからね。ただ、伊集院さんを倒すにはこれしかないと思って……つるぺたをフル活用させて貰いました」
「あれにはやられたにょ」と伊集院が笑う。にょにょにょにょうるさいわ!
「ははは、巨乳は嫌いかい?」
「いやあ、嫌いって程でも無いですが、大きいおっぱいに魅力は感じませんね」
 ……ん?
「僕の中ではつるぺたが最強でして、まあ正直、おっぱいなんてあってもなくてもどうでも良いパーツですよね」
 ぷつん。
『てめえコラ中西ぃー!』
『ちょ、秋葉さん?』佐藤が慌てる。
 俺の中で何かが切れた。ビクリとしてこちらを振り向く中西。うちぴーさんとネコ耳ザンギエフはあっけに取られて俺を見た。俺は実況席からマイク片手に説教モードだ。
「え、あの、実況さん?」
『てめえ、もう一度おっぱいはどうでも良いとか抜かしてみやがれ。このおっぱいマイスター秋葉純也が許さねえ! お前はおっぱいの良さが分かっとらん、全然分かっとらんわ! お前はあの二つの宝石を揉みしだいた事があるのかッ』
「いや、無いですけど……」
『ほらごらん、そうだろうそうだろう。俺だって無いわチクショウ! だが、その淡雪のごとき感触は知っている。都市伝説にて知っている! そこで手を出して目をつぶれや中西ィ!』
「は、はい」
 素直に両手を差し出す中西。こいつ良いヤツだなあ。
「秋葉君、君は一体何を」うちぴーさんは慌てていた。
 俺は手元にあった大きめの大福を二つ手に取り、良く揉みほぐして餡の粘度を調整した。同時に手の温もりを大福の生地に移し、人肌に近付ける。
「ふむ、こんなところか」
 実況席を飛び出した俺は、目を閉じた中西の両手に、二つの大福を優しく軽く乗せてやった。
突然の手のひらへの感触に、中西が驚愕の表情を浮かべた。
「な、何だこの感触は……全く固さを感じさせず、かといってコシのない柔らかさでもない。きめ細かい粉のようなすべすべとした肌触りの下には、モチモチの吸い付くような感触が見え隠れしている……指にちょっとでも力を入れれば崩れて形を変えてしまいそうな、それでいてしっかりとした存在感のあるこれは――!」
「これがおっぱい(仮)の感触だッッ! ジーク=おっぱい!」
「な、なんて気持ち良いんだ。ポヨポヨプヨプヨしていて……これが、おっぱい(仮)……」
 中西の言葉に会場がどよめく。職人芸の和菓子を舐めるな、大福表面に付いた餅取り粉のきめ細やかな質感と柔らかさが驚くほどおっぱいに酷似しているという伝説があるのだ。情報源はクラスメイトの佐藤伸太郎だからかなり怪しいが、きっとそうに違いない。
 明日のコンビニは何故か大福の品切れで大混乱だろうよ、くっくっく。
「すみませんでした、実況さん。僕は今まで、おっぱいをバカにしていました。あんな脂肪の塊を愛でて何が楽しいんだと。でも、あの気持ち良さは最高でした。僕もいつか、本物を手に出来るよう頑張りたいと思います」
 おお、素直だな中西君。
「ジーク=おっぱいでしたっけ、ははっ」
「そうだ、。人類の宝に敬礼するんだ」
「わかりました。実況さん、お願いがあるんですが、僕の代わりにルールを決めて頂けませんか? この役目は、僕よりもあなたがふさわしい気がするんです。僕としては、縞ぱんさえフリーダムにして頂ければ文句はありません。ね、うちぴーさん。どうでしょう」
 えっ?
「ふむ……そうだね。中西君がそう言うなら」
 ええっ? なんだ妙な話になってきたぞ。
「それに、秋葉君はエロの何たるかを分かっているようだし、絶妙なバランスのグダグダボーダーラインを決めるのには適任かもしれないね」
 それは褒められているのか微妙ですよ所長。……所長って何だ。
「うん。俺もそれが良いと思うにょ」
 お前は死ね。
 俺はしばし考え、決断した。ふむ、呼ばれたのも何かの縁だ。この世界で伝説を築くのも悪くないなと思ったのだ。
「……分かりました。この秋葉純也、エロライン確定の大役を仰せつかりましょう!」
『おおおおおーッ!』
 会場から大歓声が上がった。俺はマイクを手にし、会場に向かって叫んだ。
『聞いての通りだ野郎共! この世界のエロは俺が解放する! チラリズムを壊さないギリギリまでな! てめえら、存分に期待して声を張り上げろーッ!』
『おおぉぉぉっ!』
 うちぴーさんが、佐藤が。シスター中西が、オノマトペ伊集院が。いつの間にか復活していた五度ダウンのフルーティ小林とコケティ(略)斉藤が。
 みんな、みんな一つになった。
『エロスしようぜ、みんな!』
『おおぉぉぉっ!』
 最高だぜ、妄想野郎共。会場の心が一つになったのを感じ、俺は右手を天に付き上げた。
『ジーク=お』
「あ、ごめん秋葉君。タイムリミットだ」
 へ? 

 ガタンッ。
「……っぱーーーー……い……」
 勢い良く突き上げた右手の先に、白い天井といくつも並んだ蛍光灯が見えた。
 え? あれ?
「お前、いきなり何を言いだすんだ……」
 隣で呆れているのは佐藤だった。向こうの佐藤幸太郎ではない。正真正銘、俺の親友の佐藤伸太郎だ。
 見慣れた教室は、まさに古典の授業の真っ最中だった。初老の教師が呆れて俺を見ている。
「秋葉、居眠りするのは構わんが、周囲に迷惑だけはかけるんじゃない」
「す、すみません」
 周囲から失笑が漏れる。そりゃそうだ、居眠りしてたやつがいきなり「おっぱい」とか叫びだすんだ、そりゃあどんな夢見てんだよとなるわな。
 は、はは……。
 突っ立ったまま、俺は全てを理解したね。あの世界は、ルベノトイラは幻だったんだって。
 それにしても夢オチって、今時ベタな……。
「よし。分かったらとりあえず廊下に行こうか、秋葉」
 やっぱりね。トホホ。
 机を離れたとき、佐藤が声をかけてきた。
「おい、秋葉。ポケットから何か落ちたぞ」
 親友が拾ってくれたのは、包装紙に包まれた大福だった。
 買った覚えの無い大福には、少し揉まれた様なぬくもりと柔らかさがあった。
「どうした、固まって」
 ああ。これは……
「秋葉?」
「佐藤、これ、大福じゃないんだ」
「はぁ? どう見ても大福か、百歩譲ってもまんじゅうだろ」
「まあ、名解説でも分からないことがあるよな」 
 きょとんとする佐藤。 
 
 ――宝石なんだよ。とびきりのバカ共との、約束のしるしなのさ。 
 そんな言葉を飲み込み、俺は笑って教室を後にした。
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だいふく

こんばんは

この作品を匿名のギリエロ企画で読んで、龍咲作品だと分かった私ってwww。
まぁ、秋葉君のおかげですが。
色々な意味で突き抜けた作品ですよね。

昨日改めて読ませて戴きましたけれど、十分楽しめましたよ。
何気に面白いう○ぴーさんの描写に受けました。

 にゃっほー。
 L先生の作品は、真面目なのとギャグなのとが二極……とまでは行かないにしてもかなり分かれてると思うんです。
 で、この作品はギャグに突っ走った素晴らしい作品ですwww もちろん、ラ研の住民しかわからないネタや、子供(僕)はわかっちゃいけないネタがありましたが、だがしかしっ! おもろいww

 聞いた限り、まだ僕が読ませてもらっていない作品がいくつかあるようなので、GW過ぎて落ち着いたらせびりに行きますっ!
 その前に、「笑顔の~」への感想を書き直します。いくらてんぱってってもあまりにあんまりでしたorz すいません。

 それではー。(このレベルで黒歴史だったら、僕のは一番良い出来でもゴ(ry))

こんにちはー

某サイトではいつもお世話になってます。

なつかしーなー大福。名前もっと実名使おうよとかいった感想をした記憶ははっきり覚えてますw
しかしこの作品で黒歴史とか言ってたら俺の(ry

又遊びにきまーす

某矢さん

コメントありがとー!
さっそくリンク貼らせていただきました!
これからもよろしくお願いしますm(_ _)m

たちばなさん

某所では誰が書いたかまったく予想できてなかったみたいでしたwww<大福
面白い作品=読者が楽しめる作品だと思っているので(これらは須らくイコールではないです)、ラ研であることは最大限に利用させていただきますw
自作品のキャラを使いまわしするのが好きなんですよねー。

う○ぴーさんは、ほら……ややもすると退場処分くらっちゃうのでw

夢さん

にゃっほー。

>L先生の作品は、真面目なのとギャグなのとが二極……とまでは行かないにしてもかなり分かれてると思うんです。
 これはご指摘のとおり、けっこう意識してやってますねー。真面目に書くときはクスリともこないお堅いやつを書きます。多分某サイトに投稿してもフルボッコにされそうなやつw
 ストック……あるかなあw あってもずっと前のやつだからなー(汗
 でも、夢さんも真面目に文章うまいよね。や、ボケなしで言わせてもらうと。

 感想ありがとうございますw あれは嬉しかったのですよ!
 忙しいようですから、無理だけはしないでくださいねー!

Sさん

おお、いらっしゃいませー!
先日は面白い作品をどうもでした! 
Sさんの作品は黒歴史ではなく桃歴史w 
でも「エロ=Sさん」という式が出来ているのは素直にうらやましいです。こだわりみたいなものでしょうか?w

許可が下りればリンクを貼らせていただきたいと思います。
……しかし、なぜしきたんがけずられたし(ry
プロフィール

安美和伸

Author:安美和伸
あんびかずのぶ、と読みます。自堕落街道まっしぐらなダメ人間。某病院に勤務中。趣味は野球に麻雀、落描き、あと何か。

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